◆山の茶畑

奈良県の北東端、三重県の伊賀上野に隣接する山間にへばりつくように一面の
茶畑が広がります。ここは、奈良県月ヶ瀬、昔からのお茶の産地です。

以前取材した鹿児島は知覧の薩摩英国館・田中京子館長から、奈良県で国産紅茶を有機栽培している方がいるとの紹介を受け、今回は、月ヶ瀬健康茶園さんを訪問です。


◆お茶の開拓者

「日本の風土だから生みだすことができる紅茶の味わいがあると思うんです。」

かく語るは、茶園の17代目岩田文明さん。昭和59年、ご両親の岩田文祥さんと美代さんが有機無農薬での緑茶栽培をはじめ、平成13年から文明さんが緑茶の茶葉を紅茶に加工しはじめた


◆決断の時

「当時両親は、農薬や化学肥料の散布に疑問を感じていたようで、減農薬での
お茶栽培をはじめようと思い、奈良の消費者グループさんに相談したそうです。

それなら、是非有機無農薬で栽培してくれませんか!との彼らの声に後押しされ、有機無農薬での緑茶栽培を即決したようです。」
萎凋機(茶葉をしおれさせる機械)


◆生態系のバランス

「ツバキ科のお茶は広葉樹でも虫がつきやすく、6月から9月の間は必ず虫が
つくんです。チャドクガやミノムシは広がると大変なので一匹一匹手でとっています。あとはカマキリなんかの天敵が駆除してくれます。

農薬を撒くということは、天敵をも殺すことになります。茶畑の生態系のバランスを崩さないことが大切なんです。」

揉捻機(紅茶用茶葉を揉む機械)


◆紅茶との出会い

文明さんは、前職で環境系の仕事に就いていた頃、英国に出張する機会があり場末の休憩所のようなところで普段使いの紅茶を振る舞われた。そのときの喉を転がり落ちる紅茶の味わいに深く感銘を受けたという。

父達が育んだ茶木やふかふかの土壌を継承しながらも、なにか茶園に新たな息吹を吹き込みたいとの想いもあって、7年前に紅茶作りを始めた。紅茶づくりは静岡で有機無農薬で紅茶製造をしている水車むら紅茶さん(*1)から教わった。
揉捻機(緑茶用茶葉を揉む機械)

「『やぶきた』などの緑茶品種はカテキンが少ないので、紅茶に加工しても渋みや香りが押さえ気味となります。

反面、パンチはないけど、アミノ酸が多い
ので旨みがあって飲みやすく親しみやすいかもしれません。紅茶品種はカテキンが多いのでやはり渋みや香りが高いです。

春摘みの一番茶より夏摘みの二番茶の方がカテキンが増えるので、味や香りもしっかりしてきます。一年くらい寝かして熟成させた方が味がのってくる品種もあるんですよ。」

文明さんは熱く語る。



◆国産紅茶の復活

昭和40年代までは、月ヶ瀬一帯でも紅茶新種である「べにひかり」が栽培され、紅茶製造も盛んで近隣にあった森永製菓などに出荷していたという。だが、1971年の輸入自由化でほとんどは「やぶきた」などの緑茶品種に植え替えられた。

文明さんは、閉鎖されることになった奈良県農業試験場などから紅茶
品種の茶木を移植し、「べにひかり」や「べにふうき」などを栽培、紅茶品種での紅茶作りも始めている。

◆風土を活かす

「暖かい南インドやスリランカでは、年間を通じて茶葉を摘みます。日本ではそれは無理です。ですが、冬の間にじっくり滋養を溜め、ゆっくり育った茶葉でつくる紅茶の味わいもあると思うんです。

そんな日本の風土を活かした紅茶
をつくりたいと思っています。」



まだ試作品ですがと味見させてもらった春摘みの「べにひかり」紅茶は、ミントのような爽やかな香りが鼻に抜ける上品で味わい深いものだった。


遠くない将来、自宅でこの味わいに再会できるのを愉しみに茶園を後にした。


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