◆櫨とハゼ

東京の友人に今度、櫨(ハゼ)の取材に福岡に行くという話をすると、

「えっ、魚のハゼって石鹸となにか関係あるの!?」 との返事。

たしかに、暖かい土地に育つ櫨の木は関東の方では身近な樹木とはいえませんし、江戸川放水路のハゼ釣りを思い浮かべる方が自然かもしれません。

逆に九州の知人に櫨の話をすると、決まって

「庭や並木によく植わってたわ〜。でも、櫨ってかぶれるのよね〜。」との反応。


◆櫨と漆

九州では庭木や並木としよく植えられていて、身近ではあるが、かぶれるイメ
ージが強くちょっと敬遠されがちな樹木のようです。

櫨は漆と同じウルシ科で、かぶれ成分であるウルシオールが含まれるが、実際は漆の木ほど成分は強くなく、木が活性化する梅雨の季節以外ではあまりかぶれることはないというのですが、それだけ九州地方では櫨の木に接する機会が多いのでしょう。


◆櫨の実の蝋

櫨の木は秋になると真っ赤に紅葉し、櫨の実をたわわに実らせます。その櫨の実を搾ると櫨蝋(ハゼロウ)とよばれる蝋分(成分的には油脂)がとれ、これが和ろうそくの原料となります。

石鹸の原材料油脂の一つとして櫨蝋が使われたこともあったといいます。

◆日本文化と櫨蝋

調べてみると福岡の南西部、有明海近くに櫨蝋を搾っている工場があるという。しかも、ほぼ日本唯一の櫨蝋工場となってしまった、らしい。

えっ、櫨蝋がなくなったら、和ろうそくはどうなってしまうのだろう。お相撲さんの鬢(びん)付け油だって櫨蝋と椿油を混ぜて作るというし。

様々な不安や質問をあたまで巡らせつつ、博多から車で櫨蝋工場のあるみやま市へ。


◆櫨並木のある風景

途中、同じ福岡の久留米市に県の天然記念物の指定を受けた櫨並木があ
るというので少し立ち寄ってみることに。

柳坂曽根(やなぎさかそね)の櫨並木と呼ばれ紅葉の秋には観光客であふれるというが、取材時は2月初旬、落葉で裸になった木に少し櫨の実が残っているだけで少々さびしい風景。

だが、たしかに川沿いに櫨の木がならび、周囲にも
櫨の木畑が広がっています。たしかに、こんなにも多くの櫨の木を見たことは関東でも関西でもありません。

◆藩の財政をささえて櫨蝋

そもそも九州に櫨の木が多いのは、江戸時代、藩の財政を建て直す産業として、
薩摩の島津藩、肥後の細川藩、筑後の久留米藩などが櫨の栽培や製蝋を奨励し盛んになった名残りだといいます。

櫨蝋が普及するまでは、東北の漆の木から採れる漆蝋で和ろうそくが作られていたそうですが、漆の実より蝋分が多くとれ、安価で流通できた櫨蝋が九州、四国、中国地方で多くつくられるようになると、漆蝋はほぼ廃れてしまいました。


◆日本を代表するワックス

成分的には、櫨蝋も漆蝋も同じパルミチン酸が主成分なのですが、櫨の実に結
晶が小さく粘り気が強い「日本酸(Japan Acid)」という成分が多く含まれ、安価で質も高いということで、明治大正期には「Japan Wax」として海外にも多く輸出された。

しかし、そんな櫨蝋も安価なパラフィンなどの石油代替製品が流通し、電気が普及することでろうそく自体の需要も減り、いよいよ国内で櫨蝋をつくっているのも数箇所となってしまったようです。

さて、車は水郷の街で知られる柳川あたりを越え、さらに南に。有明海にそそぎこむ矢部川を越えると櫨蝋工場まであと少しです。

次回
は、櫨蝋工場とあわせて櫨蝋を取り巻く現状についてレポートしますので、乞うご期待を。


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